ぶらパチ図書館(002)
「写心」ー人生が透過してくるハービー山口さんの写真集

 
Coutesy of Sunnyday Ketchup
2004 年3月6日


 
 ハービー山口さんといえば、福 山雅治とか山崎まさよしといった人気の歌手の写真集を思い出す人が多いと思います。それも大変素敵な写真が満載なのですが、私は別の一枚の写真を思い浮か べます。
 ある昼休み、本屋をうろうろしていると、文庫本の棚から一冊の本のカバーの写真が私の目を捉えました。黒いドレスを着た女性が、手鏡をもってファンデー ションを叩いている・・・。ハービーさんの著書『女王陛下のロンドン
(講談社文庫)を飾った表紙写真(左)が、初めて見たハービーさんの写真でした。

【写真家への道標となった写真】
  『Galaxyと題されたこの写真は1981年に撮られたものでハービーさんのホームージによれば、「当時流行っていた『PX』という店の店員 で、ディスコへ行くためにメイクをしているところ。たしか名前は、キム」を撮ったものだそうです。オリジナルの写真にはもっと右側に窓ガラスがあって、そ こにキムとその脇にいる若い男、そして薄暗い部屋が映っています。窓ガラスの向こうには夕闇の通りと、そこを歩く男のぼんやりした立ち姿も見えます。どこ かの控え室でしょうか、キムの背後には男物のジャケットと帽子をかけたハンガー、キムの前のテーブルの上には化粧品のケース、鬘(かつら)の台、タ ブロイド新聞、コーヒーカップ、いっぱいになった灰皿とマルボロ一箱が雑然と置かれています。
 キムは
肩を露出するドレスを着て、豊満で麗しい体躯をやや前傾して化粧に専念しています。ほの暗い部屋でキムだけが燦燦と輝いている。
 この写真には、
ロンドンの夜の大人の空 気が漂っている。一度目にすると、その艶やかな世界に引き込まれてしまう−そんな魔力のある写真です。
 この写真をハービーさんは寺山修司に見せるのです。すると寺山
修司は、「こういう写真 が撮れるなら、君はもう写真家としてやっていけるだろう。食べていけるよ」といったそうです。ハービーさんは「僕は三十歳を過ぎていたが、プロ写真家にな ろうとする自意識をささえてくれた一言だった」と書いています。



【背負っている人生が人のシルエットになる】
 ハービーさんの著書に、
『feel the healing 彼女がいちばん輝く瞬間(とき)』(弥生書房、1996年 刊)があります。さまざまな分野で活躍する女性とのおしゃべりに随想を加えてまとめたものです。ハービーさんの人柄がにじむような本で、読んでいて大変に 心地よい。その中に次のような文章があります。
「街頭に佇んでいて、シャッターを切りたいと思う瞬間というのは、街を歩い ている人々、立ちすくんでいる人々、その人々の顔にその人の人生がふと表れている、そんな瞬間だと思います。・・・ときにシルエットになったり、または昼 間の強い光に照らされていたり、そこにその人が今、背負っている人生があります。」
 
その本の表紙カバーには『Tilda(1987)と題された右 の写真がフィーチャーされています。仄暗い部屋で板壁に寄りかかり目を瞑る女性。頬が紅潮しているようにも見えます。ダンスとかバレーとかで、レッスンを 終えて息を整えているのかな。あるいはつらく長い一日が終わり、アパートにたどり着いてホッとしているのか。どれが正解でもそれはいいのですが、写真に 写っている人の人生を感じさせてしまうのがハービーさんの写真です。
 一枚の写真に人の人生までも写しこんでしまう…。写真は普通に言えば光線を捕らえるもので す。カメラ(フランス語でカメラはアパレイユ・フォト、光の装置)で光線をフィルムに塗りつけた化学物質に反応させるのが写真です。したがって心の中、と いうような抽象的なモノは写りません。ところがハービーさんの作品は人間という生物の外面を写しながらも、心の中から透過してくる感情の光線が感じられる のです。「写心」−それがハービーさんの写真の個性なのかもしれません。







【ハービー山口写真集ーヘムレンお気に入り】
ハービー山口さんの写真集で私が好きなのは、ロンドンでの日常やパン ク全盛のころのミュージシャンやアーチストのスナップなどを集めた、『London After the Dream(流行通 信、1985年)です。冒頭の『Galaxyも収録されています。ブライトン時代の『Looks like rain』と題した二人の少女の写真なども素敵です。ただ、残念ながら絶版で、手に入れようとすると古本屋さんしかありません。私はインターネットで 捜索して、在庫のある古本屋さんに注文して手に入れました。
 ロンドンを題材にした写真集にはもう一冊、『London - Chasing the Dream
(左)がありますが、私は入手できていません。
 ミュージシャンのルックスはいわば商品の一部なわけですが、ハービーさんの手にかかると日々笑ったり悩んだりしながら暮らしている一人の人間の姿が見え る。それがハービーさんの写真の魅力であると思います。

 また最近、取り壊しになった代官山の同潤会アパート(これは原宿の 同名アパートとともに、日本でも創生期の集合住宅として都市計画を学んだ人で知らない人はいないモノです)を題材した、「代官山17番地」もあります。

 

【ハービー山口さんに会った!】
 実は、最近ハービー山口さんにお目にかかりました。 私の大学時代からの友人Fさんが某雑誌社に勤めています。彼女が、すでに廃刊になった男性週刊誌の編集をしていたころに、ロンドンの音楽関係の取材でハー ビーさんと知り合いになったのだそうです。そのFさんが、ハービーさんのパーティーがあるから一緒に行かない?と誘ってくれたので、喜び勇んで出かけたと いうわけです。事前にFさんからハービーさんに『ぶらパチ写真館のURLをお知らせしてあった(!)そうで、ハービーさんは開口一番「ああ、見ましたよ!」っ て。これには焦りました、、、。「ずいぶんあちこち、行ってますね」とも。たくさんのお客さんの来られるパーティーでしたから、ゆっくりお話することもで きませんでしたが、私にとっては忘れがたい夕べとなりました。


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